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2021.03.15

ヤン・シュヴァンクマイエル「博物誌 Tab.6」

ヤン・シュヴァンクマイエルはチェコスロバキア・プラハ生まれのシュルレアリストの芸術家であり、アニメーション作家・映像作家、映画監督でもあります。
シュヴァンクマイエルは、度々、架空の博物誌図版様の作品を制作しています。
これはブリコラージュという手法、思想であり、文脈から切り離され、断片化され商品化されたただのコラージュではなく、野生の思考、存在の魔性を保っている手法でもあります。
最も有名な作品として今回ご紹介する妻エヴァとの共作アニメーション作品の公開告知ポスターである「ANIMA+ANIMUS+ANIMACE」や連作「博物誌」の作品などが挙げられます。

その「博物誌」の中で6番目の作品に用いられているモチーフには、特に思い入れが強かったのか設定を反映させた物語も用意されていました。作風に準じて内容もシュールなのでご紹介します。

fig.3 フェラケウス・オイディプス
オーストリア原住民はフェラケウスを、「息子を授ける女」という意味の「マカ・サマンブ」と呼んでいる。なぜなら、彼らは妊娠している女性がこの動物の卵を飲み込むと、息子を生むと信じているからである。この迷信は、あきらかにその卵巣が生殖する異常な形態と関連がある。「母性愛」の期間(オーストリラリア原住民は、この動物がつがいとなる時期の10月をこう呼んでいる)のあいだ、メスは樹林地帯を去り、奥地の塩の砂漠へと向かう。温かい場所を探して、骨ばった手で柔らかい砂に浅い穴を掘り、そこに卵管から成熟した受精卵を落として、エッグスタンドに立てるようにとがったほうをうえにする。それから熱く、血で膨らんだ舌を突き出し、卵のひとつを舐めはじめる。卵の黄身は母親の熱い舌で温められると、数時間のうちにフェラケウスの子供になる。弾力のある殻は卵のとがった部分が膨らみはじめる。母親が舌でその膨らみを長い間愛撫していると、殻が割れて、卵から子供の勃起したペニスが突き出てくる。フェラケウスの子供達はもっぱらオスとして生まれ、ペニスが最初に出てくる。というのも、卵の殻を割るハンマーとして役立つからである。母親の舌の付け根にある皮脂腺からは、このとき濃い白い分泌物が出はじめる。舌を子供のペニスのまわりにぺったりと巻き付け、メスはフェラチオのようなことをしはじめる。子供がオルガスムスに達すると感じたとき、ペニスは口全体でくわえて精液を吸う。精液は特別な吸水管(精液)を通って、母親の子宮に到達し、そこで新しい卵子と受精する。こうして孵ったばかりの子供が自分の母親を妊娠させる。「母性愛」のこうした産卵-受精過程全体は、メスがただ顎を閉じ、子供を去勢することによって完了する。以前は、シュトラウフの不正確な観察にもとづいて、去勢が起こるのは例外的であり、母親のオルガスムスの抑えられない痙攣の結果だと信じられていた。新しい調査、とりわけ学士院会員のベルンシュタインとトーマス・ロイドによって、われわれは、去勢が母親のオルガスムスとは無関係だが、フェラケウス・オイディプスの自然な性の進化の一部分であることを知っている。なぜなら、子供は母親を妊娠させることによってオスとしての生物学的機能を果たし、去勢がその生殖上の変態の第一歩となるからである。去勢された若いオスは一年で大人のメスに成長する。フェラケウス・オイディプスはこのようにオスとして生まれ、メスとして死ぬ。

この「博物誌 Tab.6」の他にも設定を明文化した作品がいくつかあるのですが、ここまで詳細に物した作品はありません。